奥歯の虫歯治療は見た目より強度が重要?
奥歯には、自分の体重と同じ荷重の負荷がかかります。毎日の食事や会話の際に、咬み合うほかに、スポーツや重い荷物を運ぶときなど、咬みしめるためです。(※1)
奥歯治療には、見た目の他に、大きな咬合力に耐える強度が必要です。
今回は、奥歯の虫歯治療についてご紹介いたします。
※1 (出典)日本歯科医師会 スポーツと歯科
奥歯が虫歯になったら
奥歯は、もともと、歯ブラシが届きにくく、歯の溝があるため、虫歯になりやすい箇所です。奥歯の治療には、どのようなものがあるでしょうか。
奥歯の治療方法
奥歯の治療方法は、大きく分けて、充填する、詰め物、被せ物の3種類です。具体的には、以下の治療方法です。
■コンポジットレジン
比較的、小さな虫歯の場合に選択される治療方法です。
虫歯を切削し除去したら、コンポジットレジンという歯質に類似した歯科材料(白いプラスチック)を充填します。
■インレー
インレーとは、詰め物のことです。虫歯を切削により除去したら、型取りをして、詰め物を製作します。その後、セメントで合着して完了です。
■アンレー
アンレーとは、簡単に説明すると、詰め物と被せ物の中間です。奥歯には、咬頭と呼ばれる山型の構造があります。咬頭をカバーするように作られる被せ物がアンレーです。
アンレーの場合も、虫歯を切削により除去したら、型取りをして製作し、セメントで合着して完了です。
■クラウン
クラウンは、歯の全体を覆う被せ物です。虫歯を切削により除去したら形を整えて、型取りをして製作します。その後、セメントで合着します。神経を除去する根管治療を行った場合には、クラウンの治療の前に、コアと呼ばれる土台をセットすることが必要です。
▶根管治療のながれについては「根管治療(歯の神経の治療)の方法と流れ」の記事をご確認ください。
保険診療による奥歯治療
現在も、奥歯の虫歯では、保険診療による銀歯の治療が多く選択されています。
“奥歯なので、見えないから大丈夫”と、銀歯を選択する方がいらっしゃいますが、後から思いのほか、目立つと後悔される方がいらっしゃいます。
銀歯の価格
奥歯の銀歯は、保険診療で3割負担の場合、インレーで3000円前後、クラウンで4000円前後かかります。
銀歯のメリット
銀歯のメリットとしては、
・安価にできる
・多くの歯科医院で一般的に行われている治療
・強度がある
・歯の切削量がすくない
というメリットがあります。
銀歯のデメリット
では、反対に銀歯のデメリットとはどのようなものがあるでしょうか。
■見た目
銀歯は、実際は口腔内で、銀色に光るというよりは、黒く見えてしまいます。大きく口を開けて笑った場合や、会話の際に、下の奥歯にセットした銀歯が見えやすいです。
■金属アレルギー
経年劣化により、金属イオンが流出し、歯肉や接触する粘膜に発赤や、水疱、潰瘍などの炎症が起こることがあります。
■メタルタトゥー
メタルタトゥーとは、金属の被せ物をしている歯の根元の歯肉が、黒ずむ症状です。金属イオンの流出が原因で起こります。
■虫歯や歯周病のリスク
金属のインレーやクラウンの場合、口腔内で日々熱いものや冷たいものに接触することで、わずかながら熱膨張を繰り返します。結果として、土台となる歯と、セメントの間にわずかな隙間ができるため、2次カリエスと呼ばれる虫歯や、歯周病のリスクが高くなります。
自由診療による奥歯治療
日本の歯科診療は、費用負担の面で、保険診療か自由診療に分けられます。
自由診療は、使用できる材料に制限がありませんが、歯科医院によって価格が異なります。治療後の経過の安定性や高い満足度を得るためには、価格のみではなく、歯科医師の技術力や、それぞれの治療方法の特徴を理解して選択することが大切です。
自由診療で奥歯に用いられるセラミック
奥歯には、大きな咬合力がかかるため、十分な強度が求められます。白い見た目とともに、機能面でも優れる材質を選択するためには、それぞれの特徴を理解することが大切です。
セラミック治療については、ご存知の方も多いのではないでしょうか?
審美性の高い歯科材料として、認知度が高く、色調や透明度の再現性に優れています。経年劣化による色調の変化がないこともメリットの1つです。その他にも、金属と比べて、表面にプラークの蓄積が起こりにくいことから、虫歯や歯周病のリスクが低く、口腔衛生に優れることから口臭のリスクも抑えることができます。
セラミックにも、いくつかの種類があるのでご紹介いたします。
■オールセラミック
オールセラミックは、金属の裏打ちがないため、金属アレルギーや、メタルタトゥーのリスクがありません。
デメリットとして、衝撃に弱いため、大きな咬合力のかかる奥歯の場合、設計に注意が必要です。場合によっては、咬み合わせることで、割れてしまうリスクがあるからです。
■ハイブリッドセラミック
セラミックと歯科用プラスチックを混合した材料で、CAD/CAM冠で使用されます。審美性はオールセラミックよりは透明度に劣り、機能面でもオールセラミックには劣りますが、比較的安価に治療をすることができます。金属アレルギーや、臼歯の残存歯数によっては、保険診療が可能です。
■ジルコニア
人工ダイヤモンドで有名なジルコニアも、オールセラミックに類似した審美性を持ちえた素材です。高い硬度から大きな咬合力に対しても、十分に機能することができます。
■e-max
e-maxは、透明度の再現性に優れています。二ケイ酸リチウムガラスを主成分として、強度が高く、インレーやクラウン、ラミネートベニアなどの治療に用いられています。ガラスセラミックによる摩耗性があるため、対合歯(咬み合う歯)を削るリスクも他のセラミックに比べて少ないと言えます。
奥歯治療に最も適した材質とは
保険診療の金属や、自由診療で使用できる材質など奥歯治療に用いられる材質はいくつかあることを先にご説明いたしました。
セラミックが理想的と言っても、セラミックにも様々な種類があります。
では、どのセラミックが最もすぐれているのでしょうか。
強度に優れたジルコニアセラミック
奥歯治療の場合には、強度に優れたジルコニアセラミックがお勧めです。
ジルコニアは、素材の強度に優れることから、補綴物(インレーやクラウン)の厚みも少なく済むため、歯の切削量も少なくて済みます。これまで、セラミック治療でインレーやクラウンが割れてしまった経験がある方は、ジルコニアを1つの選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。
しかし、強度が大きいがゆえに、咬み合うことで対合歯(咬み合う歯)を摩耗することがあるため、注意が必要です。
大切なことは、治療をする歯を単独で評価することなく、咬み合う歯の状態や、歯ぎしりや咬みしめといった習癖など、お口全体の咬み合わせを考慮して治療を行うことです。
まとめ
今回は、奥歯の虫歯治療についてご説明いたしました。奥歯は、咬み合うことで大きな負荷がかかります。そのため、せっかく白いインレーやクラウンを自由診療でセットしても、割れてしまう可能性があります。
自由診療でセラミック治療を選択する場合には、補綴専門医や審美歯科医など、これまでに多くのセラミック治療を経験した歯科医師に依頼することをお勧めします。
お口の状態にあったセラミックの治療方法を選択することが、より審美性と機能性に優れた虫歯治療につながります。
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▼このコラムは歯科医師によって執筆・監修されています▼
【コラム執筆歯科医師の紹介】
木坂里子
東京医科歯科大学卒業 現役歯科医師として勤務